東京の蝉

東京にも、ミンミンゼミがいた。
暮れなずむ都市の真ん中に、一匹だけ鳴いている。
東京は、都心ほど緑が多いのだと、同席の友人。
建ち並ぶファッションビルを見下ろすテラスバー。
遠景の、タワーや超高層ビル群に明かりが灯り始めたころ、その明りの効力が少しずつ増していくころ、蒼い空がだんだん黒に近い鈍色になるころ、都会の喧騒に混じってその存在がほとんど無い多くのアブラゼミの小さな音にまじって、ひと際大きな声で鳴くミンミンゼミ。
東京の蝉は、シャンソンとブルーチーズと、オールドスタイルソルティードックの香りがする。
空の蒼がすっかりなくなり、このウッドデッキのテラスが、光の海に浮かぶ飛行船になったころ、
蝉の声はいつの間にか無くなり、その代りに、
美しく未来を語る友の顔が、吹き渡る都市の風の中にあった。
2008.7.30 新幹線の中で。