10月の海

秋とはいっても、まだ完全に枯れきってはいない10月。

よく晴れた日の海は、暖かく、亜熱帯化しているという日本の海の水温は、まだ夏の名残を留めていた。

忙しくしていた夏を取り戻すがごとく、逸る気持ちを鎮めつつフェリーの水しぶきを聞いていた。

いつもの浜。僕の浜。

つい先ごろ人間だと90を超えていると獣医に言われた犬は、予想通り着くなり海に飛び込んだ。

久しぶりの感触を楽しむかのごとく、気持ち良さそうに泳いでいる。リハビリだねと家人が言う。

僕はジーンズの裾をまくり、裸足で海に入ってみた。

初夏の海とは逆に、気温より水温の方が高い。僕は、パーカーとジーンズを脱ぎすて今年初めての海水浴をした。やっと来たか。心の中でハハハハと笑いながら泳いだ。犬も一緒に泳いだ。犬は、ヘヘヘヘと言っているようだ。ハハハハとヘヘヘヘは、一定の距離を保ちつつ仲良く泳いだ。ハハハハとヘヘヘヘなのだ。

ちゃんとした夏に海水浴をしている家族は、あきれ顔だ。クラゲがたくさんいるよなどと、言っている。

ハとヘは、そんなことはまったく気にせず泳いだ。潜ってみると確かに両手を丸めたくらいの水クラゲがたくさんいる。「お盆を過ぎるとクラゲがいるからね。」とよく聞くが、お盆なんてとっくに過ぎていて、彼岸も過ぎて、今は盆前なのだと、ハハハハは愚かに考えながら、やはりハハハハと笑いながら、クラゲをかわしながら泳いだ。

一度、テーブルと椅子とキッチンがあるだけのベースキャンプに戻り、缶ビールをコップに注ぎひと息飲んだ。浜から扇状に広がる水色の空と深緑色に太陽が反射する海を一緒に見ながら飲むビールと、一服の煙草は格別だ。

今度は後のことを考えて、乾きかけたパンツも脱いで、我ながら冴えた思考だと愚かな笑みを浮かべつつ、周りに人がいないことをいいことにまた泳いだ。浜で自分なりの陣地を造って寝そべっていた犬も合流した。またしても、ハハとヘヘなのである。タノシーナー、キモチイーナーと無邪気にと言うのだろうか、ちょっと危ない中年は、やはり賢そうではなくそれでも平気で、体が海水と混ざる感触を楽しんでいた。犬は、同じことをしているのに何故かバカそうには見えない。うーむ、だがハハハが勝り、ひととき海水浴を楽しんだ。

椅子に座り、煙草を吹かしていると、まだ浜に着いて1時間も経っていないのに、もう大方のことをやり尽くしたような満足感に浸っていた。

2008.10