有働アナウンサーの伝えなかった数秒間〜中国新聞広場欄(不掲載) 

「伸身の新月面が描く放物線は栄光への懸け橋だ。」

先日スポーツ紙・テレビ等で取り上げて話題になっていた、アナウンサーの名台詞である。金メダル目前にした体操団体日本人選手最後の種目、鉄棒の着地を実況する際の表現である。

4年前のシドニーオリンピック。柔道の決勝戦において、日本人選手がまさに金メダルへの懸け橋となるべく投げを打って勝利したはずだったその時、審判は相手選手の一本を宣した。チームを率いる山下さんが、両手を広げて抗議しているが聞き入れられない。まさかこのまま終わるはずがないと思っていたが、表彰式が始まってしまった。

その時、NHKの有働アナウンサーは、しゃべらなかった。長く感じたがおそらくは数秒間だっただろう。ただ、目に涙をためて沈黙していた。言葉を使わずして、彼女なりの精一杯の伝達に思え、私は強く共感し、深く感動した。

オリンピックは出場する選手は勿論のこと、それを伝える側の人も普段に増して輝きを放つものと感じている。(飯田修平) 2004.8