お金で買えないもの〜中国新聞広場欄 2005.12.9付
お金で買えないものとは何か。どんなに超人的な力があっても、はぐくまれた文化や、思い出などの記憶は、誰にも買えない。仕事柄、家などの建物解体に立ち会うことは少なくないが、物陰でそっと涙をぬぐう元住人の姿を見て、もらい泣きしたことがある。1軒の家には、1軒件分の思い出がある。
広島厚生年金会館が、売却の危機にさらされているとの報道(中国新聞5日付社説など)があった。当施設の音楽的価値について述べられていた。その通りだと思う。ましてこの施設は、広島にゆかりの深い、丹下健三氏の作品でもある。丹下氏といえば、焼け野原になった広島に、平和公園や原爆資料館を設計した世界が認める建築家である。
政府は、全国の同様施設を売却する計画という。無駄なものなら処分すれば良いが、当施設はどうだろうか。いくら政府方針といえども、広島市としてどう対処するのか。このような問題にこそ、秋葉忠利市長にリーダーシップをとってもらいたい。万が一、文化を捨て、記憶を踏みにじり、その地に商業的見地から集合住宅でも建とうものなら、そのとき私は広島市民をやめたくなるのである。
2005.12.5 飯田修平