ミントシャンプー

お気に入りの美容師が、ヒゲを剃っている。頬を摘みあげるように、また掌でなぞるように、一心不乱に剃っている。しだいに、美容師と横たわる私の体は、タイトになる。首筋にカミソリが走る。そして、またもっとタイトになる。…けだるくてオフィスを飛び出した私は、しだいに陶酔し、そして、眠る。

一枚のCDを購入したくなった。昔よく車で聞いた「シャカタク」が聞きたくなった。涼しくしたオフィスで、建築の図面を描きながら聞きたくなった。その頃は、よくレコードを借りてきてテープにとっていた。その頃のテープはすっかり今はもうない。

美容師が、耳元で何か言っている。小さな声で。それでもシャンプーしている私にちゃんと聞こえるように、耳に顔を近づけて何か言っている。夏だから爽やかなシャンプーにしました。…などと少しずつ区切って、シャンプーの説明などをしている。丁寧に喋っている。普通に発している言葉がしだいに耳たぶを覆う。だんだん意識が遠く移動していく。シャンプーは、これぞ商業的シャンプーの醍醐味!と言わんばかりの爽快感。爽快と正反対にある快楽を同時に感じつつ、また少し眠る。

オフィスは涼しいし、曲は想像以上に心地良い。私の体は質量を失っていく。お気に入りの美容師にミントシャンプーで頭を洗ってもらっていた、つい今しがたのあの時のように。…飯田修平) 2001.6