深い水平スリットで絶縁した空間
武田山の家
そろそろ冬仕度という頃。それは一本の電話から始まった。クライアントは30代前半の会社員。家族は奥様と子供がひとり。犬が2匹とネコが1匹。趣味はアウトドアスポーツ・レジャー。
この家の特徴を一言で言うのは難しい。外観を見ただけなら深い水平スリットで2階があたかも浮遊している様に見える点だけだが、この家の特徴だと誤解されてしまうかもしれない。しかし、この家は住んでいる人と招かれた人でなければわからない特徴を内部にいくつも秘めている。たまたま、この家の上空を横切る鳥がいたとすれば、その秘密の一部に気づかれてしまうかもしれないが・・・。
2階の窓際にあるダイニング。ここは朝陽をたっぷり取り込めるように、道路ギリギリまでせり出している。
1階正面の奥には、オープンエアのエントランスホールが隠されている。(写真はエントランスホールのガラススクリーン越しから見える中庭。この写真の右上には広々としたデッキとダイニングがある。)
1階ピロティ左側の階段。この階段を上りきるとダイニングの裏手に出る。
一枚の刃物が空気を切り離す。深くそしてあくまでも水平に。切り離されたのは空間だけではない。時間そして日常の煩わしさからも乖離した安寧のスペースがそこにある。
クライアントは1300ccのバイクで駆け、マウンテンバイクを操り、スキーそしてスキューバダイビングと行動的で開放的。一方で余計な関わりを是とせず、寡黙で静かな面を併せ持っている方だ。そこで、外界からの視線を遮断しながら開放感もある空間。それがこの家を設計する上で大きなテーマになった。
挽きたてのブルーマウンテンが飲みたくて、ついつい早起きしたくなるような、そんなキッチン・ダイニング。傍らのデッキチェアに散歩前の愛犬たちを侍たせておいて、静かに小鳥のさえずりに耳を傾けるゆったりとした朝のひと時。(この写真の正面奥がダイニング。そのすぐ右に1階のピロティーに続く階段がある。ダイニングの左側から手前に向かって延びている壁の内部にキッチンはある。デッキづたいに右の通路を手前にくるとリビングにはいる玄関。)
夜には心地よい風が吹き抜けていくデッキの上で、星空を見渡しながらワインパーティはいかがでしょうか。(中庭が見下ろせる広々としたデッキ。このデッキの上には遮蔽物がまったくない。あるのはどこまでも続く空だけだ。)
庭の吹き抜けをはさんでダイニングの真向かいにあるのがリビングだ。デッキ伝いにリビングに入る扉がこの家のもう一つの玄関になる。扉を開けるとすぐに靴300足が収まる収納家具がある。 リビングにはいる玄関の手前にこの家の最上部へと伸びる階段がある。階段を上りブリッジを渡ると、小さな部屋がありさらには屋上デッキへと連なっている。この屋上デッキは4方を高さ1.9mの壁に囲まれていて、プライバシーが完全に保たれている。ここにいることは、たまたま上空を横切った鳥にしかわからない。(デッキへ出るときに踏むガラスのステップが、秘密の時間へいざなう。)
同じ空間が、時間の経過とともに、季節の移ろいとともに、まったく違う表情を見せてくれる。自然光をできるだけ採り入れ、かつ、効果的に照明を配置する。
この家に暮らす人たちの日常をドラマチックに演出してくれる「光」がもう一つの重要なテーマだ。
1階ピロティーの床に埋め込まれたアッパーライトから伸びる光の帯。屋上を囲む壁面を彩るブリッジの影。様々なライトが、幻想的な静寂で満たされた空間を構成している。(写真の中央がダイニング側のデッキから見たリビング。左手には屋上にアクセスするための階段が見える。)
リビングからは、中庭の吹き抜けを挟んで真向かいのダイニングが見える。
天井から自然光がたっぷり入る明るいバスルーム。
キッチンはオリジナル。